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GigaStと外部ミキサーによるPCのマイクロ波測定スペアナ化
はじめに

簡易スペアナ・アダプタGigaStはパソコンで簡便に信号のスペクトルを観察できるので大変重宝している。トラッキングジェネレータ機能を使って増幅器のゲイン特性、バンドパスフィルタの通過特性、さらにひと工夫するとアンテナの反射係数(VSWR)の測定も可能である。当局が使用中のGigaStは測定可能最高周波数が4GHzである。アマチュアバンドの2.4GHz帯まではこれまでに大いに活用してきたが、何とか5.6GHz帯や10.1GHz帯など、もう少し上の周波数まで測定してみたいという欲がでてきた。その方法としては外部ミキサーと外部局発を用意して周波数変換すれば可能なはずである。高級スペアナとは較ぶべくもないが、工夫すればアマチュアバンド内の波形を測定することができそうである。

しかしこれも当局のような初心者にはそう簡単に構築できそうにない。そこで友人のJA9SNG平間OMに相談したところ、ジャンク組み合わせの5.6GHz帯、10.1GHz帯および24GHz帯、それぞれの測定系を構成してくれた。これらは、それぞれの入力周波数帯に対応して観測周波数が4GHz以下になるようにミキサーで混合する外部局発を各バンドごとに用意したものである。この測定系で実験した結果、上記バンドの信号スペクトルを必要十分なレベルで観測することができた。しかしこの方法はジャンクの入手も容易でなく、汎用性にやや難がある。また、これら複数バンドの測定がひとつの測定系で構築できればさらに便利になる。

そこで、ここでは、GigaStの活用法、無改造BSコンバータを利用してC、X、K、各バンドを観測する方法、およびJF1VAS成澤OMの開発になる3バンド(10GHz、24GHzおよび47GHz)ミキサーを利用する方法について実験結果を報告する。
簡易スペアナ・アダプタGigaSt

GigaStは青山氏の開発によるもので、現在Version 3.0がキットとして提供されている。スペアナといったような高級測定器など思いもよらなかったアマチュア無線(銭?)家にとって、ハンディトランシーバを購入する程度の投資で4GHzまでの高周波信号が扱える機器が手もとで利用できるのは画期的といえる。詳細な技術資料がホームページ*上で公開されているのも活用上大変便利である。写真1はGigaSt Ver.3.0キット完成後の内部である。

* http://www.aj.wakwak.com/~gigast/
活用法としては、a)スペクトルアナライザ(SA)、b)トラッキングジェネレータ(TG)、c)信号発生器(SG)の三つが基本的な機能である。とくに、掃引機能により活用範囲が広がる。これまでに行った測定の例を以下に2〜3紹介する。

1.送信機出力増幅器のスプリアス特性調整・・・a)機能を使った1.2GHz帯および2.4GHz帯の送信出力波のモニタと調整

2.各種フィルタの通過特性・・・b)

3.AO−40用LNAのゲイン−周波数特性・・・b)の機能を使って測定した結果を図1に示す。Sバンド2401MHzのゲインが20dBであることがわかる。
4.アンテナのSWR調整・・・方向性結合器を準備してb)TG機能を利用すればアンテナ反射係数の周波数特性が測定できる。図2はAO-40のSバンド受信用へリックスアンテナの反射係数特性である。進行波と反射波の差が反射係数であり、Sバンド受信周波数2401MHzにおける差は25dB(VSWR=1.11)である。アンテナ、方向性結合器およびGigaStとの接続法を図3に示す。
写真1 GigaSt Ver.3
図1 AO-40用LNAのゲイン特性
図2 Sバンド用ヘリックス反射係数
次に、GigaSt Ver.2(Ver.3では不可)本体だけで5GHz帯を測定するための以下のような裏技を開発者の青山氏より教えていただいたので実験してみた。次の式に示すハーモニックス動作を利用している。

  Fm = (F±Fif)/N ± Fif・・・・・(1

ここに、Fは測定対象周波数、FmはGigaStでの観測周波数Fif(=480MHz)はGigaSt内中間周波数、Nはハーモニックス倍数である。図4に示す例は、F =5760MHz、N =3のときにPCモニタ上のFm =1600MHzあたりで観測されたスペクトルである。ただし、周波数の読み取りは目盛りをN (=3)倍する必要がある。

図3 反射係数測定法
BSコンバータをミキサーに

JA9SNG平間OMが10.1GHz帯観測用に準備してくれたのはBSコンバータを改造したものである。これは誘電体発振器(DRO)を物理的に加工して発振周波数を変更、ヘテロダインされたスペクトルが1,045MHz付近で観察できるようにしてくれた。そこで、無改造BSコンバータではどのような結果になるか実験してみようというJH1UGF槇岡さんの発案で早速測定を試みた。

供試したコンバータはTDKのBSCC80N21である。これをミキサーとして利用するとDRO周波数が10,680MHzであるので、測定周波数が10,240MHzのとき観測周波数は、Fm =|10,240−10,680|=440(MHz)である。観測結果を図5に示す。感度も高い。
図4 GigaSt Ver.2で5GHzをみる
BSコンバータは高感度増幅器を内蔵しており、ゲインが50dB近くもあるので他のバンドでも試してみた。変換周波数は次式で求められる。

   Fm = |N × F ± n × FLO|・・・・・(2)

ここに、FmはGigaStでの観測周波数、Fは測定対象周波数、Nは測定対象周波数ハーモニックス倍数、FLO(=10,680MHz)はBSコンバータ局発(DRO)周波数、nはDROハーモニックス倍数である。

5GHz帯および24GHz帯においても実用的な感度で測定可能であった。なお測定周波数、観測周波数およびハーモニックス倍数の関係は表1に示すとおりである。BSコンバータを利用する方法については次のURLも参照いただきたい。

   http://www12.plala.or.jp/jn1ayv/BSconverter/
図5 BSコンバータによる測定

表1 BSコンバータ・ミキサーの測定周波数と観測周波数の関係

F (MHz)

FLO (MHz)

N

n

Fm (MHz)

MIX type

5,760

10,680

2

1

840

BS converter

10,240

10,680

1

1

440

BS converter

24,025

10,680

1

2

2,665

BS converter

レーダーモジュール改造トリプルバンド・ミキサー

JF1VAS成澤氏開発のトリプルバンド・ミキサー(図6)は10GHz、24GHzおよび47GHzの各測定バンドとも観測周波数は1GHzとなり好都合である。本ミキサーはレーダーモジュールを改造したものでレーダーモジュール局発(DRO)周波数FLOが11.5GHzであるため表2に示すように、局発(DRO)周波数のハーモニックス倍数nをそれぞれ1、2および4とすることで式(2)から観測周波数が1GHz付近となる。
図6 Triple-band Mixer Module
写真2 Triple-band Mixer Module内部
写真3 47GHzATV信号測定中

表2 レーダーモジュール・ミキサーの測定周波数と観測周波数の関係

F (MHz)

FLO (MHz)

N

n

Fm (MHz)

MIX type

10,240

11,500

1

1

1,260

Radar module

24,025

11,500

1

2

1,025

Radar module

47,065

11,500

1

4

1,065

Radar module

図7は24GHz帯ATV画像送信中のスペクトルを1GHzに変換してGigaStで表示したものである。次の図8は47GHz帯の無変調ATV送信電波の受信例である。このように47GHz帯においても実用上十分な感度で測定できる。
図7 24GHz帯ATV画像送信信号
図8 47GHz帯ATV無変調送信信号
写真4のように、ハムフェア2003のMWACブースにおいてこの3バンドミキサーを実演展示した。多くの方々より質問があり、大変高い関心を集めていた。マイクロウエーブの自作を目指す局には有効に活用できると思われる。また、GigaSt開発者の青山氏もブースにこられ展示に協力をいただいた。
写真4 ハムフェア実演展示
おわりに

マイクロウエーブで何か製作しようとすると測定用の機器が不可欠である。ところがこの周波数帯で使えるものは高価でアマチュアには高嶺の花である。しかし高級測定器がなくとも工夫次第では目的を達成できることを多くの先輩が示してくれている。今回も、何とか5GHz帯のスペクトルを見たいということがきっかけで、先達の指導でかなり前進することができた。本稿は、その過程を紹介したものである。

最後に、このようなすばらしい機能をもったGigaStを開発され、安価に提供くださった青山氏に敬意を表する次第である。また。GigaSt周波数拡張の契機を与えていただいたうえ、各バンドの測定系を提供くださったJA9SNG平間氏にこの場をかりてお礼申し上げる。さらに、BSコンバータの利用ではJH1UGF槇岡氏、および3バンドミキサーを使った測定ではJF1VAS成澤氏ならびにJG1QGF種村氏にご指導・ご協力いただいた。
UPDATE:
  2004/01/05
(マイクロウエーブ・チャレンジ2003より転載)