10GHzトランスバータ・キットの製作
− マキ電機UTV−10G−KIT −
■ 興奮のレインスキャッタ交信
雨模様の夏のある夜,YAMAメーリングリストに北方向でレインスキャッタが発生しているとの書き込みがある。
レインスキャッタとは(JF1TPR熊野谿さんのWeb)電波が雨雲や雨に反射してとんでもない方向へ飛んでいく現象だ。
5GHz帯で長野県が聴こえているらしい。オンラインの情報交換が行われているYahooチャットルーム(現在はRSの部屋)にチェックイン。早速、5Gのトランスバータのスイッチを入れ、オフセットディッシュのビームを秩父山系武甲山方向に向けて5760MHzあたりをFMでワッチする。
何かざわざわした信号らしきものを発見。方向角や仰角を変えて信号の強いところを探す。ブツブツという耳障りな音を伴って音声がかろうじて復調できた!長野市の局が聞こえている。コールするが届かないようだ。ここで戸田市のJI1CBS小林さんからSSBでよんでみてくださいというサポートがある。
できました!特有のノイズがあるがRS51で交信できた。レインスキャッタ、初体験。続いて長野県北佐久郡とFMモードRS52で交信成立。思わず知らず大声でおらんでいたようだ。XYLが何事かとシャックをのぞいたのもうわのそら。多くのギャラリー(当局の送信電波が聞こえていた局)も応援していてくれたらしい。
すっかり興奮してしまった。交信には至らなかったが湘南茅ヶ崎からの電波が新潟にも届いていたとのレポートがあった。次の日にもレインスキャッタ発生,群馬県高崎市,埼玉県本庄市,埼玉県戸田市と交信ができた。これははまりそうだ。
■ 10GHz帯で夢よもういちど
聞くところによると10Gのレインスキャッタもすごいらしい。5Gに劣らず予想外のDXができるようだ。残念ながら10Gの設備がない。なんとか10Gのトランスバータを手に入れたいが、う〜ん、これが結構高価なのである。
そうかといって自分で自作できるような実力もなく,なんとかならんかと思案しつつ
マキ電機のホームページを見ていたら,お値打ちなキットがあるではないか。これなら、自称自作派としてのプライドもくすぐられるしな〜といったわけで
10GHzトランスバータキットUTV-10G-KITを製作することにした。
この際、出力も200mWはほしいのでパワーアンプも組み込むとしよう。あらかじめ電話でお願いしておいたキット一式をハムフェアー会場マキ電機のブースで社長令夫人から受け取る。
■ 10GHzトランスバータ・キット製作
□ UTV-10G-KIT + PA UNIT & BPF
キットだけの送信出力は70mWであるが、MGF1302+MGF1601Aの2段増幅パワーアンプユニットで200mW以上の送信出力が得られる。なお、トランスバータ・メインボードとパワーアンプユニットの間にバンドパスフィルタを配置する。
□ 追加部品とケース加工
キットは上の写真のようにアンテナとの接続部の送受切替同軸リレー以外は組み立て調整済みである。高周波同軸リレーにはヒロセHSC2-110-F(DC〜15GHz)を利用した。そのほか、コネクタSMAP-SMAPおよびSMA-PA-JJが必要である。
□ 高周波同軸リレーとセミリジッド同軸ケーブルの接続
接続の前に、背面パネルにすでに開けてあるSMA-PAフランジ取付けビス用下穴4ヶ所にM2.6のタップでねじを切っておく。ねじが切れたら変換コネクタSMA-PA-JJを固定した後、同軸リレーを組み込む。
接続はリレーのCOMとSMA-PA-JJ(アンテナ接続)、NCとRX-IN、NOとTX-OUTである。さらにリレー送受切替信号線、GND端子およびパワーユニット電源線、出力インジケーター信号線を配線する。
□ 10GHzトランスバータ送信出力の測定
配線と接続を確認してからDC電源につなぐ。親機のC601とIFコネクタを同軸ケーブルで接続。トランスバータ・アンテナコネクタにはとりあえずダミーロードを挿しておく。C601の周波数を1296MHzセットして送信(100mW)する。トランスバータの出力インジケータが振れ、電源の電流も増える。そこで、写真のように出力計HP432Aで測定すると240mW程度の出力であった。送信系統は機能しているようだ。
次に、受信系統のチェックを行った。アンテナコネクタには10GHz用ホーンアンテナを取付け、簡易マルチバンド・マルチ周波数パイロット信号発生器(マキ電機)の信号を受信してみる。信号発生器のSMAコネクタにはアンテナ代わりの1cm長くらいのメッキ線を刺した。10,240MHz(TCXO 12.8MHz×800)を受信してみるとC601のSメーターは5ほど振れている。受信もOKの模様。何のトラブルもなく完成した。
JE1SCJ吉田さんのWebでは一味違うカスタマイズされた同キットの製作記事が紹介されている。
それにしてもこのパイロット信号発生器は簡易SGとはいえ応用範囲は広い。受信機の調整だけでなく、パラボラの焦点合わせにも役立つ。5.7GHzまでは実績として10m程度の距離までは有効に活用できた。この信号をスペアナでみると12.8MHzおきにきれいに線スペクトルが並んでいるのが観測できる。
□ 10GHz&5GHzデュアルバンドホーン1次放射器
5.7GHz帯デュアルモードフィードホーンに10.1GHz帯モノポールを対面に追加して両周波数帯で使用できる1次放射器に改造した。ホーンアンテナについてはJI1CBS小林氏の記事(CQ誌、2000年4月号P92)が参考になる。方向性結合器とパワー計の組合せで測定したSWRは10,240MHzのとき1.22であった。
□ オフセットパラボラアンテナ
写真のように1次放射器とトランスバータを45cm級オフセットパラボラアンテナに取り付けた。これに防水目的のビニール袋をかぶせてルーフタワーに上げた。
■ トランスバータを防水ボックスに収納
ビニール袋の防水ではいささか心もとないのでトランスバータを防水ボックスに収納することにした。ケースはプラスチック防水ボックスTAKACHI GA-19-27-10を利用した。アンテナへの接続部はエアコン配管用パテを用いて防水処理した。
□ 防水ボックス
□ 1次放射器とパラボラ
アンテナは25cm直径アルミ絞りセンターフィードパラボラディッシュとした。1次放射器にはJH1UGF槇岡さんの記事(CQ誌、2003年3月号P102)のスリット放射器を用いた。
さあ、これでレインスキャッタを追っかけてみよう。まずは局地的に発生した強い雨雲を見つけることであるが、最近はインターネットのお天気レーダーが大いに役に立ちそうだ。梅雨の時期、ワンゼロ(横浜市、戸田市←→新潟市)間でレインスキャッタ交信ができたそうだ。
UPDATE:
2003/07/01